ブランド運営において考えるべき「6つの消費タイプ」

2026.5.1

    はじめに——なぜ「良い商品」が売れなくなるのか

    ブランドの運営に携わっていると、ある共通の問いにぶつかることがある。「品質は上がっている。顧客の声も悪くない。それでもなぜ、売上が頭打ちになるのか」。

    この問いに対して、多くのブランドは施策で答えようとする。広告費を増やす。クリエイティブを刷新する。キャンペーンを打つ。しかしそれらが一時的な効果をもたらしても、構造的な問題は解決されないまま残る。なぜなら、問題の根は「施策」ではなく「買われ方の設計」にあるからだ。

    人がものを買う動機は、一種類ではない。「痛みを解消したいから」買う人もいれば、「好きなデザイナーが手がけたから」買う人もいる。「このブランドの思想に共感するから」買う人もいれば、「このブランドを買うことが自分のステータスになるから」買う人もいる。これらはすべて異なる動機であり、それぞれ異なるアプローチで設計しなければ、顧客の心には届かない。

    この「買う動機の種類」を体系的に整理したものが、NineCraftが定義する「6つの消費タイプ」である。

    消費タイプを理解することは、単なる顧客分析ではない。それは、自分のブランドが今どんな動機で選ばれているかを把握し、どんな動機を次に育てるべきかを考えるための、ブランド運営の根幹をなす思考軸である。本稿では、NineCraftが定義する6つの消費タイプを横断的に解説し、それぞれの特徴・具体例・ブランド運営上の含意を整理する。


    第一章 消費タイプの全体像

    NineCraftは消費行動を、「人が何を手に入れるために購買するか」という視点から6つのタイプに分類している。

    機能的消費・情緒的消費・価値観消費・記号的消費・応援的消費・繋がり消費

    これら6つは、購入者が意識的・無意識的に求めている「便益の種類」によって区別される。重要なのは、これらは排他的ではないという点だ。同一商品が複数の消費タイプで選ばれることはあたりまえであり、むしろ優れたブランドは複数の消費タイプを重ねることで、顧客との関係を多層的に構築している。

    また、消費タイプは顧客の属性を固定的に分類するものでもない。同じ人間が、場面や気分によって異なる消費タイプで購買することは日常的に起きている。平日と休日でブランドの選び方が変わる。同じブランドを「機能的に」使い続ける人が、ある日突然「応援したい」という感情を持つ。消費タイプはグラデーションとして存在し、流動するものとして理解する必要がある。

    以下、各タイプを順に解説する。


    第二章 機能的消費——比較されることを前提とした消費

    定義と構造

    機能的消費とは、商品が持つ「客観的に駆動する機能」を手に入れるための消費である。購入者が求める便益は客観的なものであり、他の商品との比較・交換が可能という特徴を持つ。

    「ワイヤーブラだと痛みがあるから、タグのないノンワイヤーブラを買う」——これが機能的消費の典型だ。痛みという課題が先にあり、それを解消する機能を持つ商品を探し、比較して買う。このとき、顧客の頭の中にあるのはブランドへの愛着ではなく、スペックとコストパフォーマンスである。

    特徴とメリット・デメリット

    機能的消費の最大のメリットは、「ブランドがなくても売れる」点にある。課題が明確であれば、ブランド認知がなくても購入は起きる。また、顧客がすでに課題意識を持っているため、購入の意思決定が比較的早く、CVR(コンバージョン率)を獲得しやすい。

    しかし裏返せば、比較されやすく記憶されにくいという構造的な弱点がある。顧客にとって、あくまで「課題を解決してくれる手段」でしかないため、より良い機能・より安い価格の競合が現れれば乗り換えが起きやすい。同じ機能を持つ競合が増えれば増えるほど、差別化は価格とスペックの消耗戦になっていく。

    機能的消費に依存したブランドが必ず直面するのが、「コモディティ化の壁」である。参入当初は機能が新鮮でも、模倣が進むにつれてその優位性は失われる。機能が圧倒的で、かつ市場が拡大期にある場合(いわゆる「メルカリ型」)は機能的消費だけでも成長できるが、それは一時的な状態にすぎない。

    機能的消費の内部分類

    機能的消費はさらに2つのサブタイプに分類できる。

    スペック型は、マーケットカテゴリへのニーズがすでに存在している顧客に向けた消費である。「ノンワイヤーブラを探している」という顧客は、すでにカテゴリを知っており、あとは競合との機能差・価格・口コミを比較して選ぶ。この場合、検索広告やショップ内広告が有効であり、RTB(Reason To Believe)の提示と特別オファーが意思決定の後押しになる。

    ソリューション型は、まだマーケットカテゴリへのニーズが形成されていない顧客を対象とした消費である。「ブラジャーで痛い思いをしているが、ノンワイヤーという選択肢を知らない」顧客に、課題の存在と解決策を同時に提示する。TV通販広告・SNSディスプレイ広告・インフルエンサー施策など、なんとなく接触するメディアを通じて「そういえば自分もそれに困っていた」という気づきを生むコミュニケーションが必要になる。

    スペック型とソリューション型は、訴求の設計もマーケティングチャネルも根本的に異なる。自社の商品がどちらの状況に置かれているかを把握することが、機能的消費の設計における第一歩となる。


    第三章 情緒的消費——主観的な実感を手に入れるための消費

    定義と構造

    情緒的消費とは、「主観的な実感」を手に入れるための消費である。機能的消費と決定的に異なるのは、求められる便益が主観的なものであり、比較・交換が不可能という点だ。

    「好きなデザイナーが手がけたファッションアイテムを買う」——この購買に、機能的な根拠はほぼない。他のブランドと「どちらが温かいか」「どちらが丈夫か」で比べても意味がない。その商品を手に入れることで生まれる感情・体験・自己表現こそが、購買の本質的な理由になっている。

    特徴とメリット・デメリット

    情緒的消費の最大のメリットは、「他社と比較されない」点にある。主観的な実感は代替不可能であるため、競合が同じ機能を持つ商品を出しても、顧客は簡単には乗り換えない。長く使われ、リピート率・LTVが高くなる傾向がある。

    一方で、「コンセプトがないと売れない」というデメリットがある。情緒的消費を設計するためには、ブランドや商品に明確な「意味」が与えられていなければならない。プロダクトコンセプトの定義が情緒的消費の前提条件となる。

    情緒的消費の内部分類

    情緒的消費はさらに3つのサブタイプに分類できる。

    五感型は、商品のデザイン・スタイリング・質感・開封体験など、五感を通じて伝わる情緒的便益によって選ばれる消費である。「見た瞬間に価値が完結する」状態がこれに当たる。意思決定に影響するのは「表現されたものを目にすること」「実際に体験すること」であり、リアルな体験提供の機会設計とハイクオリティなクリエイティブ表現が主なマーケティング施策となる。パッケージのリニューアル、フォトクオリティの向上、ギフティングなどがこれに当たる。

    ストーリー型は、ブランドや商品に内在するストーリーを「手に入れるため」に消費される。商品そのものの機能でも視覚的な美しさでもなく、「このブランドがどんな思いで作ったか」「この商品の背景にどんな物語があるか」を購買動機とする顧客層が対象だ。意思決定に影響するのは「ブランドや商品のストーリーそのものを見聞きすること」であり、長期間・長時間の接触体験設計と、ストーリーを伝えるクリエイティブ表現が必要になる。創業者の発信、製造背景の可視化、ブランドジャーナルなどがこれに該当する。

    ロールモデル型は、憧れの人・ロールモデルと同じモノを手にしたいという動機に基づく消費である。商品の機能やストーリーではなく、「あの人が使っているから」という事実が購買の根拠になる。意思決定に影響するのは「ロールモデルの人が消費している場面を見聞きすること」であり、有名人・著名人とのキャスティングやタイアップが主なマーケティング施策となる。インフルエンサーギフティング、アンバサダー起用、タレントとのコラボ商品などがこれに当たる。

    3つのサブタイプは排他的ではない。五感型で入り、ストーリー型で深まり、ロールモデル型でさらに熱狂する、という顧客のライフサイクルも存在する。


    第四章 価値観消費——消費によって自分の価値観を肯定する

    定義と構造

    価値観消費とは、「消費によって自分の倫理観や精神性が肯定される結果」をもたらすことで起きる消費である。購入者が手に入れるのは「価値観の肯定」であり、そのブランドを選ぶことが自分のアイデンティティの表現になる。

    「地球を大切にするため、CO2削減に貢献できるこのブランドの商品を買う」——この購買における動機は、商品の機能でも見た目でもない。「このブランドを支持することが、自分の価値観と一致している」という感覚そのものが、購買の理由になっている。

    特徴とメリット・デメリット

    価値観消費のメリットは、「消費されるだけで価値提供が完結する」点にある。顧客は購買という行為そのものを通じて自己表現・価値観の実践を行うため、満足度が高く、長期にわたる特別な関係が築きやすい。また、同じ価値観を持つ顧客同士がブランドを媒介して繋がる動きが生まれやすく、口コミや推薦の連鎖が起きる。

    一方で、「ブランドがないと売れない」という高い前提条件がある。価値観消費を設計するためには、ブランドとして何らかの思想・信念・社会的スタンスを明確に持ち、それを継続的に発信していなければならない。BI(ブランドアイデンティティ)の整備と、思想を発信するブランドマーケティングの実施が必須条件となる。ルッキズムへの問題提起、サステナビリティへの本気のコミットメント、特定のマイノリティへの寄り添いなど、ブランドとして共鳴できる社会テーマが明確でなければ、価値観消費は機能しない。


    第五章 記号的消費——ステータスや証明を手に入れるための消費

    定義と構造

    記号的消費とは、「ステータスや証明」を手に入れるための消費である。購入者が求めるのは、他者に自分の属性・地位・センスを示す「記号」としての商品であり、その商品を持つことが一種の社会的コミュニケーションになっている。

    「お金を持っていることを示すために、このブランドの高級時計を買う」——この購買において、時計の精度や機能は本質的な理由ではない。そのブランドの時計を持つことが、「ある種の人間である」ことの証明になっているという事実が、購買を動機付けている。

    特徴とメリット・デメリット

    記号的消費の最大の特徴は、「便益がなくても売れる」という点にある。機能的な価値がゼロであっても、ステータスとしての価値が高ければ購買は起きる。高価格であることがむしろブランドの魅力になり、価格競争とは無縁の領域で存在できる。

    一方で、「認知されていないと売れない」という条件がある。記号として機能するためには、その商品・ブランドが「ステータスの証明になる」という社会的な合意が必要だ。その合意形成には長い時間と投資が必要であり、一朝一夕に設計できるものではない。また、一度失われた「記号としての価値」を回復することは極めて難しい。

    記号的消費が機能するブランドはごく一部に限られるが、ブランドが長期にわたり一定の価格帯と品質を維持し続けた結果として、自然と記号的消費が生まれることもある。


    第六章 応援的消費——貢献の実感を手に入れるための消費

    定義と構造

    応援的消費とは、「貢献の実感」を手に入れるための消費である。購入者が求めるのは、特定のブランド・人物・チームへの「応援行為」としての購買であり、消費することが支援・共感の表現になっている。

    「好きなサッカークラブのクラウドファンディングで商品を購入する」——この購買において、商品の機能や品質は副次的な問題だ。そのクラブを応援したい、力になりたいという感情が購買の本質的な動機であり、商品はその媒介にすぎない。

    特徴とメリット・デメリット

    応援的消費のメリットは、「便益がなくても売れる」点にある。機能的・情緒的な価値がなくても、顧客の応援意欲が高ければ購買は成立する。熱狂的なファンを持つブランドが展開するコラボ商品や限定品が高値で売れるのは、応援的消費の典型例だ。

    一方で、「関係性や共感がないと売れない」という絶対条件がある。応援的消費は、顧客とブランドの間にすでに「特別な関係性・想い・状況への共感」が存在していなければ起きない。その関係性は、一夜にして構築できるものではない。

    応援的消費を設計するためには、明確なアイコン(アンバサダー・ミューズ・創業者・スポーツチームなど)の存在が前提となる。そのアイコンに既存のファン・フォロワーが存在し、「あの人を応援したい」「あのチームの力になりたい」という感情が顧客の中にあって初めて、購買という応援行動が起きる。


    第七章 繋がり消費——繋がりを手に入れるための消費

    定義と構造

    繋がり消費とは、「購入したという事実および購入した内容を示すことによって生まれる繋がり」を手に入れるための消費である。他の消費タイプとは異なり、商品そのものの価値よりも、「この商品を持つことで誰かと繋がれる」という社会的な文脈が購買を動機付ける。

    コミュニティへの参加費がわかりやすい例だ。セミナー参加費・サロンの月額費用・特定のコミュニティへの入会費などは、その内容よりも「ここに属することで、共感や好感を持てる人と繋がれる」という期待が購買の本質的な理由になっている。

    特徴とメリット・デメリット

    繋がり消費のメリットは、「共感や好感がある人と繋がれる」という価値提供にある。同じ志向・趣味・価値観を持つ人と繋がりたいという人間の根本的な欲求に応えることができるため、顧客にとっての代替不可能性が高い。一度繋がりが形成されると、そのコミュニティへの帰属意識が継続購買の動機になり、LTVが高くなる傾向がある。

    一方で、「設計と運用の難易度が高い」というデメリットがある。繋がり消費を成立させるためには、コミュニティの質を継続的に維持し、新旧メンバーの関係性を醸成し続けなければならない。ブランド側が放置すれば、コミュニティは自然に劣化する。また、コミュニティの規模が大きくなるほど、一人ひとりの「繋がり感」が希薄になるというジレンマも存在する。

    繋がり消費は、現代のSNS環境と親和性が高い。「このブランドのファンである」という帰属意識をSNSで発信することが、さらに新たな繋がりを呼ぶというサイクルを設計できれば、繋がり消費とブランドの認知拡大が相互に強化される構造を作ることができる。


    第八章 消費タイプは「重なる」——複数の動機で選ばれるブランドへ

    ここまで6つの消費タイプを個別に解説してきたが、改めて強調したいのは、これらは排他的ではないという点だ。

    優れたブランドは、複数の消費タイプを重ねて設計することで、顧客との関係を多層的に構築している。機能的消費(ソリューション型)で新規顧客を獲得し、情緒的消費(五感型・ストーリー型)でブランドへの愛着を育て、価値観消費・応援的消費・繋がり消費へと関係を深化させていく——このプロセスが、「1つの理由で買っていた顧客が、複数の理由で買い続ける」状態を生み出す。

    この観点から見ると、CRM(顧客関係管理)の本質的な役割も見えてくる。CRMとは、機能的消費で獲得した顧客を情緒的消費へと転換させるための「教育と習慣化の設計」である。機能で入ってきた顧客に、ブランドのストーリーを伝え、使うことで生まれる主観的な実感を育て、「このブランドでなければならない」という感覚を醸成する。これが実現したとき、顧客はブランドの「推薦者」になり、さらに新しい顧客を呼び込む循環が生まれる。


    おわりに——消費タイプを知ることは、顧客との関係を設計すること

    ブランド運営において、消費タイプを把握することは「顧客分析」ではなく「関係設計」である。

    今のブランドがどの消費タイプで選ばれているかを知ることで、自分たちの現在地が明確になる。そして、次にどの消費タイプを育てるべきかを考えることで、マーケティング施策の優先順位が定まる。施策の羅列ではなく、消費タイプという軸から戦略を構造化することで、予算の使い方も判断の根拠も格段にクリアになる。

    機能的消費だけで戦い続けるブランドは、必ずコモディティ化の壁にぶつかる。しかし、複数の消費タイプを重ねて設計されたブランドは、価格競争とは無縁の領域に到達する。それは単に「売れ続けるブランド」ではなく、「選ばれ続けるブランド」になることを意味する。

    消費タイプの設計に終わりはない。市場は変化し、顧客の動機は進化し、競合の動向も常に変わり続ける。だからこそ、消費タイプという視点を持ち続けることが、長期にわたるブランド運営の土台になる。


    本稿はNineCraft Inc.によるブランド戦略フレームワークに基づいています。Copyright © 2023 ninecraft Inc. All Rights Reserved.

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