2026.8.4
神保町駅に掲示された、NineCraftメンバー一人ひとりの「意志」。
このプロジェクトは、NineCraftが提唱する「意志表現経営」を、自ら実践するために始まった取り組みです。
そこに並ぶ言葉は、最初から生まれたものではありません。
自分でも気づいていなかった想いや、うまく言葉にできなかった感情を、対話を重ねながら少しずつ掘り起こしていく。そのプロセスを経て、一人ひとりの言葉は形になっていきました。
今回は、メンバーの言葉づくりに伴走したクリエイティブディレクター・岡田に、意志を引き出す対話の裏側と、その過程で見えてきたことについて話を聞きました。
——「社員一人ひとりの意志を広告にする」と聞いたとき、率直にどう思いましたか?
岡田: 正直、「?」でした(笑)。
広告って、企業が商品やサービス、あるいはブランドのメッセージを発信する場所だと当たり前に思っていたんです。そこに個人の意志を掲示するなんて、僕自身見たことがありませんでしたし、驚きと同時にかなり新しい試みだと感じました。NineCraftらしいなとも。
メンバーのみんなは最初は少し困惑もしていたんじゃないかな。
普段から自分を表現することに慣れている人なら面白そうと思えたかもしれませんが、表現すること自体をやったことがないメンバーからすれば、「何をどうしたらいいか分からない」というのが本音だったと思います。
——そこから、岡田さんがメンバーの言葉づくりをサポートすることになったわけですが、実際に取り組んでみてどうでしたか?
岡田: 僕の中ではこれって、普段クライアント向けに行っている業務に近い感覚だったんです。うまく表現できない、言語化できないというお客様に対して、それを引き出すために「こっちですか?それともこっちですか?」と問いかけていく作業と同じだなと。
例えば「嫌だな」と感じたときって、「なんで嫌だと思ったんでしょうね?」と深掘りしていくと、「昔こういうことがあって……」と過去の記憶や本音の気持ちが出てきたりします。
そうやって言葉を引き出すコミュニケーションを、そのまま社員に対してやってみようと思いました。
ただこれまでと違うのは、何かを売ろうとしているわけではない"素"の人間の言葉を探しにいくということ。個人の表現をサポートするのは僕にとっても初めての挑戦でしたが、多くの学びもありましたし、すごく面白かったですね。
——岡田さんがこのプロジェクトで一番こだわりたかったポイントは何ですか?
岡田: 企業や商品の広告の場合、公の舞台に上がるための言葉として、ある程度身だしなみを綺麗に整える必要があります。
ただ今回はいかに普段使っている「“素”の言葉」にするか。ここには一番こだわりました。
多くの人は「自分の意志を社会に表現してください」と言われてそのモードに入ってしまうと、どうしてもかっこいい言葉や、見映えのいいコピーを書こうとしてしまうんです。でも、意志はどれだけうまくまとめてあっても、そういう装飾された言葉にはなぜかグッとこない。
「かっこいい言葉」を書いてしまうって、僕は一種のガード(自己防衛)なんだと思うんです。服を着たり、ちょっと良い車に乗ったりして外装を作るように、かっこいい言葉で自分を覆ってしまうんです。 でも、そうやって着飾った言葉だと読み手との間に距離感が生まれてしまって、心に届かなくなってしまう。
実際、途中で「どういうスタート地点で書けばいいか分からない」という声が多かったので、広告コピーの基本的なメソッドを伝える勉強会を開きました。そうすると今度は逆に、かっこいい言葉や見映えのいい表現がどんどん出てきてしまったんです。もちろんコピーとしては成立しているのですが、やっぱりどれも響かない。
それはまだ本人の言葉ではありませんでしたし、そこからが本当のスタートで、いかに見映えを整えただけの言葉を削ぎ落としていくかは最後までとことんこだわり抜きました。
——対話する上で、意識していたスタンスはありますか?
岡田:最初は僕がクリエイティブディレクターという役割であることもあってか、「こんな言葉で評価されるかな」「日本語として大丈夫かな」とみんな身構えていたのですが、「そういうことじゃないんだよ」「正解なんてないんだよ」と伝えていきました。
そして一人あたり3校、4校と修正を重ね、Slackのスレッドで何十回もやり取りを重ねてきました。
社員同士であっても最初はどこか腹を割れていなくて、対話を重ね、時には昔の記憶や挫折を思い出して黙り込むような沈黙の時間を共有していくうちに、少しずつ本音で語れるようになっていきました。
「自分はクライアントとここまで腹を割って話せていただろうか」と、自分自身の仕事観を振り返るきっかけにもなりましたね。
——制作の中で印象的だったことはありますか?
岡田: 「これでいいのかな」「もっと自分らしい言葉がある気がする」と迷うメンバーが本当に多くて、その人自身の言葉に近づけていくために、「こういう感じ?」と添削したり、僕なりの文章を書いて見せたりもしました。正直、「じゃあそれでお願いします」となるかなと思っていたんです。
でも不思議なことに、みんな「いや、それじゃないかもしれません」「もう一回自分で書いてみたいです」って拒否するんですよ(笑)。
そのとき改めて思ったんです。僕には、その人自身の本当の言葉はやっぱり書けない。
だからこそ、僕が書いた文章を「違う」と跳ね返して、自分の言葉に向き合い直してくれたことが、本当に嬉しかったし、素晴らしいなと思いました。
——完成したコピーを見ると、たった10行程度の言葉に不思議と引き込まれます。その理由は何だと思いますか?
岡田: 僕自身も大きな発見だったのですが、共感してもらおうと思って書くのではなく、自分の根源(過去の体験や感情)に戻って書いた言葉こそが、結果として他人の共感を呼ぶ、ということです。
もちろん、「どう表現すれば伝わるか」という技術や工夫はあります。
ただ今回のプロジェクトで共感を生んだのはそれではありません。
過去に本当に嫌だったこと、辛かったこと、挫折して逃げてしまった記憶、諦めた夢……そうした自分自身の根源的なストーリーを素直にさらけ出したからこそ、読み手に深く刺さるんです。
大山が「本屋を歩くのが怖かった」と書いたように、大人になるにつれて閉ざしてしまった扉をもう一度開けて、そこから言葉を拾ってきた。その勇気が、強い共感を生んだんだと思います。
——最後まで伴走してみて、メンバーのみなさんの姿をどう感じましたか?
岡田:誰一人脱落せず、自分の言葉に向き合い続けてきました。
自分の本当の意志を見つけるには、自分の人生の物語を辿らなくてはいけない。その作業は、楽しいことばかりではありません。閉ざしていた記憶を開くことでもあるので、苦しかった人もいたと思います。
それでも最後まで書き切ったのは、みんなの中に「表現したい」という意志があったからなんでしょうね。
それを間近で見られたことは、僕にとっても大きな財産でしたし、これぞNineCraftだと誇らしく思いました。
——今後はこの経験をどのように活かしていきたいですか?
岡田: ある研究によると、自分の経験や感情を「言葉にして整理する」ことには、ストレスを軽減する効果があるそうなんです。ただ闇雲に感情を吐き出すのではなく、断片的だったものが一つの筋の通った言葉になっていく過程そのものに意味がある、と。
今回のプロジェクトを通して、その理由が少し分かった気がしました。苦しみながらも自分の言葉と向き合い、最後に「書けました!」と嬉しそうに報告してくれるメンバーの姿を見ていると、「意志を表現すること」は、人が自分らしく生きるための大切な営みなんだと実感したんです。
今回、社員一人ひとりが「自分の意志を語る」ということの難しさと、それを乗り越えた先の価値を身をもって体験できました。
これからもクライアント企業に対して、こうした「意志を深掘りし、自分の言葉で語り、その意志をブランドへと宿らせる」サポートをより一層広げていきたいですし、「意志表現」を社会に実装していきたい。
そして、「意志を表現すること」が、もっと当たり前にできる社会をつくっていきたいです。
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