2026.7.27

NineCraftが手がけた、神保町駅での看板広告プロジェクト。
社員一人ひとりが、自らの「意志」を言葉にし掲示するというこの取り組みは、どのようにして生まれたのか。
代表の鄭(チョン)に、プロジェクトに込めた真意、そして「意志表現」が持つ可能性について話を聞きました。
——まず、このプロジェクトを始めようと思ったきっかけを教えてください。
鄭: 根底にあるのは、僕自身、そしてNineCraftとしての仕事のあり方です。
我々は普段、経営者やブランドに携わる方々と対話し、その内面にある「意志」を引き出して、インナー(社員向け)やアウター(社会向け)の表現に落とし込み、ブランドを強くしていく仕事をしています。
僕自身はNineCraftという会社を「クラフトする喜びを生み出し続ける」という意志のために経営をしていて、そこに共感するメンバーが働いています。
ただ、「会社が持つ意志」に共感して働くことと、「自分自身の意志を社会に直接表現すること」は、また別物だと思うんですよね。
社員の意志を直接社会に表現する機会をいつか作りたい、以前からそうぼんやりと考えていたのが始まりです。
——それが具体的に動き出したのはどういうタイミングだったのですか?
鄭: ちょうど社内合宿の企画で「経営陣から社員へギフトを贈ろう」という定期企画があったんです。「自分が心からみんなに渡したいギフトって何だろう?」と考えたとき、やっぱり「自分の意志を社会に表現する機会」に勝るものはないと思ったんです。
そこで、神保町駅の看板枠を6か月借り切るというプロジェクトをそのタイミングで立ち上げました。
——発信手法として「駅の看板広告」にこだわった理由は?
鄭: 意志を表現した社員自身が、一番実感できる形にしたかったからです。デジタル広告だと出稿されていても「届いている手応え」を実生活で感じにくいですよね。でも、自分たちが通う神保町駅のホームに、自分が作った言葉がドカンと大きく掲げられていたら、すごく実感がある。後付けの理由はいくらでも説明できますが、ストレートに企画にしたかったので、シンプルに「駅の看板で意志を表現しよう」と決めました。
——プロジェクトが始まってからの、メンバーの反応はいかがでしたか?
鄭: 最初は「看板広告を自分で出すんだ!」とかなり盛り上がっていましたが、実際に走り出してみると、みんな思っていた以上に苦戦していましたね。「自分の意志を表現する」って、言葉で言うほど簡単じゃないんです。
——クライアントの言葉づくりを手掛けるプロであっても、自分のこととなると難しいのでしょうか?
鄭: プロだからこそハマる罠があるんです。みんな広告表現やクリエイティブに携わっているがゆえに、どうしても「コピーライティング的にかっこよく書こう」としてしまうんです。でも、うまく見せようと装飾すると、逆に意志の表現から遠ざかってしまう。
これはラブレターと同じなんじゃないかと思っています。ラブレターも、どこかの本から引いてきたような格好良い言葉を並べるより、不器用でも「なんだか君のことを思い出してしまうんだよね」というピュアな言葉の方が胸に刺さるじゃないですか。意志ってそういう言葉でできているんです。
——メンバーの中には相当悩んだ人もいたようですね。
鄭: 「自分には表現できる意志がないかもしれない」とまで悩む社員もいました。でも「そんなことないよ」と。全社員の言葉を僕がレビューしたり、クリエイティブディレクターの岡田と問答を重ねたりしながら、伴走していきました。
特に印象深かったのは、第1弾の広告に出た南部ですね。最初は「一番完成しないんじゃないか」と思われていたくらいで、彼自身「ラブレターなんて書いたことがない」と言うようなタイプだったんです(笑)。
でも、岡田と徹底的に問答して「本当にピュアに出したい言葉は何?」と深掘りしていったら、心からの言葉が出てきて一番ノリに乗っていった。頭で考えるのではなく、心で唱えることが大事なんだと実感した出来事だったんじゃないかな。
——鄭さんがフィードバックをする際、どういうポイントを意識していたのですか?
鄭: みんな文章を見せてくるとき、最初は綺麗に取り繕った文章を出してくるんです。そこで僕が「これで何が言いたいの?」と聞くと、口頭でいろいろ解説してくれるわけです。その説明の中身こそがピュアで一番面白い。だから「じゃあ今言った解説をそのまま書いてください」とフィードバックしていました。
みんな表現に落とそうとするときに文脈(コンテキスト)を削ぎ落としてしまうので、「落とさずにそのまま置いてください」と伝えることで、一気に良い言葉に化けるケースが多かったです。
——NineCraftとして、意志を引き出すための「対話の型」のようなものはあるのでしょうか?
鄭: 普段クライアントの経営者とミッション・ビジョン・パーパスを作る際にもやっていることですが、大事にしているのは2つです。
1.自分の物語(過去の変遷)を辿ること
「過去にどういう状態があって、どんな出来事があって価値観が変わり、なぜ今それが大事だと思っているのか」。この時系列と心情の変化を辿ることで、今自分がここにいる軸(意志)が見えてきます。
2.「利他(リタ)のための欲求」を見つけること
自分のための欲求(お腹が空いた、眠い等)だけでなく、「誰かのために本能的に動いてしまう欲求」が人間には必ずあります。例えば僕の場合だと、昔からコミュニティ内で誰かが仲間外れにされているのを見ると理由なく鳥肌が立ち、思わず仲間に入れてしまうような本能がありました。こうした「思わず相手におせっかいしてしまうこと」を掘り下げて仕事のテーマに据えると、生きがいになるんです。
——今回のプロジェクトを通じて、ナインクラフトらしさを感じた瞬間はありましたか?
鄭: この取り組みは単なるお遊びや課外活動ではなく、メンバー全員が「意志表現における成長」を手にする機会だったと感じています。
例えば、最初に岡田がクリエイティブディレクションやコピーライティング講座を開いたのですが、それを受けたみんなが「かっこつけた言葉」を書くようになってしまった。そこで岡田自身が「意志を表現することは、他社のクリエイティブを作るのとは全く違うアプローチなんだ」と大反省して、学びを得ていた。
失敗や苦戦を経験しながら、全員が学びへと変換していったプロセスそのものが、すごくナインクラフトらしいなと思います。
——今回の看板広告は、会社や事業の宣伝っぽさが全くない点も印象的でした。
鄭: 掲出場所を決めるときも「書いた本人が実感できる神保町駅」にこだわりましたし、内容についても「NineCraftの具体的な仕事内容を書く必要はない」と伝えました。
普通、会社のお金でやるなら「少しでも会社の宣伝を」と考えてしまいがちですが、もっと抽象化して自分の人生や魂に関わる意志を表現してもらった。その方が結果的にユニークで伝わる表現になりましたし、「自分の意志を表現している」ということ自体が、うちの会社にとって一番のPRになると考えています。
——今回のプロジェクトを経て、鄭さん自身の意識の変化はありましたか?
鄭: 「意志を表現するって、やっぱり難しいんだな」と再確認しました。うちのメンバーのように「そういう仕事がしたい」と思って集まった人間ですらこれだけ苦戦するわけです。世の中全体を見たときに、自分の意志を実感・表現できている人がどれだけいるだろうかと。
意志を表現せずに20年、30年と過ごしてしまうのって、自分だったら耐えられないですし、すごく勿体ないことだと思うんです。意志を込めて仕事をすることは、生きる意味の根幹に触れる行為。だからこそ、こうした機会を自社内だけでなく、もっと社会に手渡していかなきゃいけないと強く思いました。
——この取り組みは今後も続けていきたいですか?
鄭: ぜひやりたいですね。将来的な構想としては、NineCraftのメンバーが自分の意志からブランドを立ち上げていくような展開も見据えています。
また、今回は自社インナー向けでしたが、今後はクライアント企業を巻き込んだプロジェクトにするのも面白いと考えています。「クライアント版・意志表現広告」的な。
自社の意志をダイレクトに出すことで、普通のマーケティングでは思いつかないような別解が生まれる。僕たちが企業に提案している「意志表現経営」を、自分たち自身がもっと大胆に実践し、事業として再解釈しながら社会に広げていきたいですね。
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